朝日新聞デジタルでBLを紹介しまくるオタク記者・松尾慈子氏

公開日: : 最終更新日:2012/12/08 BL, Book, Comic, Diary , ,

 ぼくが今まで気づいていなかっただけで一部ではけっこう知られていたようだが、朝日新聞デジタルに漫画偏愛主義という、月2回更新されているコラムがある。担当しているのは松尾慈子記者。92年に入社した方で、以前はアスパラクラブ、もっと昔はアサヒ・コムで連載していたそうだが、これがかなりディープな腐女子なのだ。
 07年5月11日の第1回で取りあげたのが西炯子『放課後の国。これ自体は非BL作品だが、西先生がBL畑出身の作家であるのは周知のとおり。

 西は後書きで「私は友達の作り方が下手です」と告白している。ようやくそれを自分で受け入れられるようになって、この作品が生まれたのだという。そう、西の作品を読む多くの少女たちが「この作者も自分と同じような孤独を感じているのね」と感じ、孤独を和らげているに違いない。不器用なことも悪くない。友達100人なんてできなくてもいい。西作品を読むたびに、己の不器用さを肯定する力をもらえる。長く書き続けてほしい漫画家の一人だ。

 と、松尾記者は非常に熱く語っている。


 その後、第5回でいよいよBL作品を紹介。トジツキハジメ『初恋の病だ。

 アサヒコムでの連載が始まって3カ月でとうとう本丸登場。そう、私の偏愛分野であるボーイズラブ(略称・BL)作品を取り上げたい。BLというのは、男性同性愛をテーマにした少女漫画。お嫌いな方も多いとは知っているが、このジャンルは、ほとんどの書店で平積みの定位置が決まっているほどの隆盛を誇っている。お許しいただきたい。

 と前置いたうえで、またしても熱く熱く語る松尾記者。自身がシベリア鉄道にも乗ったことのある「ほのかにテツ」であることを告白したうえで、同書に収録されている鉄道ネタの短編「列車で始まるミステリー」を取りあげている。この情熱、嫌いじゃないよ。

 その後も、折りに触れて草間さかえ『肉食獣のテーブルマナー』『さよならキャラバン』『真昼の恋オノ・ナツメ『GENTEヤマシタトモコ『恋の心に黒い羽』『BUTTER!!!』『裸で外には出られない中村明日美子『曲がり角のボクら』『卒業生依田沙江美『美しく燃える森今市子『幻月楼奇譚腰乃『嘘みたいな話ですが』『鮫島くんと笹原くん館野とお子『変わる世界など、BL作品やBL出身作家の非BL作品を次々と紹介。特に好きな作家が木原音瀬らしく、深呼吸のレビューでは、

私がBL小説で唯一読んでいる作家の木原音瀬。彼女にしか書けない、痛い設定がたまらないのです。

 と告白(この回では、昨年の東大駒場祭で行われたイベント『BL Tea Time』に登壇したときのエピソードもユーモラスな筆致で語られている)。他にも美しいこと』『キャッスルマンゴーの2作をとりあげており、いずれも力の入ったレビューとなっている。

 もちろん、BLだけではなく、一般向けマンガや少女マンガにも目が行き届いている。さらに百合作品も取りあげており、乙ひより『かわいいあなたのレビューでは、

 収録作はどれもほのぼのほんわかで、性描写は一切ない。コミックスのうたい文句に「百合コミックの入門書にして決定版」とあったがその通り。私は女子校出身ではないが、ほとんど異性と交流のない少女たちだけの世界にいた中学時代を思い出されて、切なくなった。

 と、温かい視線を向けている(ただし『少女同士の魂の結びつきは、恋愛感情に基づいてなくてはいけないのだろうか。ただの友情ではだめなのか』と疑義もさしはさんでいるが)。

 ともあれ、こんなオタク記者が『アニマゲ丼』の小原篤氏(ちなみに新月お茶の会OBでもある)以外にも朝日新聞社にいたとは知らなかった。今後も彼女のレビューを追っていきたいと思う。
 なお余談だが、東京都青少年健全育成条例改正にあたっては、

 エロスへの欲求が、創造や思索への壮大なるパワーになることを、都議会のみなさんたちは忘れてしまったのだろうか。私は中学生時代にめぐりあった「風と木の詩」(竹宮惠子・少年愛作品として金字塔的な作品)、「トーマの心臓」(萩尾望都・同じく少年愛作品の金字塔)で、10代の少年たちの性に自分を重ね合わせ、初めて性を我がこととして考えた。ほとんど脳みそを使わずに生きていた私に、初めて「思索」というものを教えたのはこの2つの作品だった。読了し、私が漠然と感じていた生きづらさは、性にまつわるものだったのかと考え、書物を開き、女性の生き方についても考えた。この2つがなければ、私は大学に行くことも、新聞記者になることもなかっただろう。
(『嘘みたいな話ですが』レビューより)

 マンガの中の性表現を規制し、青少年から遠ざければ、子供たちの性への興味が封じられるのだろうか? 子供たちが小説やマンガで性を疑似体験する機会も与えられず、いきなり自分の体で現実の性に向き合わされる方が、よほど大変だと思うのだが。そして、なぜ少女たちは、男女の恋愛ではなく、わざわざBLを読むのかを考えて欲しい。自らの女性性を受け入れがたく思う思春期の少女たちに、BLは自らの性とは関係ないところで、性についてのいろいろなあり方を示してくれるのだ。私はBLのおかげで自らの性を肯定的に受け止められるようになった、と思う。
(『変わる世界』レビューより)

 と、自らの体験を踏まえながら鋭い批判を加えている。こんな気骨のある記者がいたことは、まことに喜ばしい。

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