ブルマーを愛し、クライアントをシバく精神科医

公開日: : Diary, Medical, Society ,

 次の日曜に出る同人誌即売会合わせの新刊を作る気力がまったく沸かず、鬱々と寝たきりの日々が続く。そのかわりTogetterまとめを作ったり、はてなブックマークの人気エントリに乗っかってブログ記事を書いたりする気にはなるという、創作に対する熱意のない自分にほとほと嫌気が差しているのだが、それでもこれは書かざるを得ない。
ブルマーはなぜ消えたのか–セクハラと心の傷の文化を問う
 沖縄の精神科医・中嶋聡氏の著書なのだが、冒頭で少年時代のブルマーに対する思い入れを熱く語ったのち、

1995年頃を境に、ブルマーは急激に減少し、そして消滅してしまった。

 私にとってそれは、大げさではなく、生きる喜びの一つをもぎとられるような出来事だった。

 自分の青春時代から続いていた胸をドキドキさせる体験の元がなくなってしまったということが、もちろんその直接的な理由である。

 しかしそれに加えて、私や、おそらくは私と同じようにブルマーに夢と希望を託している男性たちの胸のときめきは一顧だにされず、それは当事者の「恥ずかしい」「いやだ」という訴えによって簡単にかき消されてしまったということが、私に大いなる空しさを感じさせたのである。

 それにしても、これからおそらく私が生きている間には、私の青春にときめきを与えてくれていたあの美しい三角の布は復活しないのだという思いは、折に触れて私に絶望に近い気持ちを与えた。

 とくる。すでに刊行当時rna氏がツッコミを入れているが、「アンタみたいのがいるからなくなったのではないか?」と言いたくなる。rna氏の記事では、数十年前からすでに「下着のようで嫌」という声が児童や保護者から上がっていたのに加え、80年代の投稿写真誌などで中嶋氏のような性的な視線が露見したことや、その後のブルセラブームによってブルマーが「エロ」の記号という認識が女子学生にも広がったのではないか、と指摘されている。彼らの自爆というか、なんというか。
 で、中嶋氏、どうも「当事者の「恥ずかしい」「いやだ」という訴え」に恨みがあるらしい。冒頭の引用は「はじめに」の抜粋だが、「第6章 セクハラ」の抜粋ページでは最初にこんな一文がある。

セクハラって悪いことですか?

 最近、男性が何かちょっとしたことをしても「セクハラ」と言われます。
 これって、おかしくないですか?
 「相手がイヤって言ったらセクハラ」???
 それ、あまりに一方的じゃないですか。
 そんな疑問を抱いて、一冊の本を書きました。
 興味のある方は、ぜひご一読ください。

 エート、女性から男性へのセクハラもありますが。その後の本文ではこんなことも。

 第一に、ハラスメント(嫌がらせ)がなぜ犯罪や犯罪まがいの取扱いを受けなければいけないのか、という問題である。
 たとえば、デュエットを強要するのはセクハラだという。
 しかし、強要されてもいやなら断ればいいであろう。
 最終的には個人の意思というものがあるのだから。
 「強要されたからいやいや歌った」というなら、それは結局は歌った本人に断るだけの勇気がなかった、ということであろう。
 たとえ強要したのが上司であっても、個人の意思というものがある以上、「上司の誘いだから断れなかった」という言い訳は通用しないはずである。
(中略)
 そのほかの分野ではやたらに男女の同権性が主張されているのに、ここでは都合よく「女の弱さ」が前提にされているのである。

 だから女性から男性へのセクハラもあると何度言えば(そういうのを『逆セクハラ』と表現する向きもあるようで、中嶋氏ならばまさにこの語を用いるかもしれない)。さらに、本当に精神科医の言葉かと疑いたくなるような驚異のマッチョイズムを披露する始末だ。このマッチョイズムは「第9章「傷つく」現代人と被害者帝国主義」にも表れる。

 先の戦争で筆舌に尽くしがたい体験をした人は、日本国内だけでも、何百万人、何千万人といたはずだ。
 言挙げするのも憚られるが、広島・長崎の原爆、対馬丸の犠牲、東京・大阪の大空襲、いやもちろんそれだけではない。
 とても言葉にできないほどの辛い体験を、多くの国民が味わった。
 本来、本当に大変な体験をした人は、「心の傷」などという軽々しい表現に身を託そうとは思わないはずだ。
 カウンセリングとか、精神療法などによって癒すとか、治療するなどということも、軽々しく口にすることはできないだろう。
 そうした人々は多分、黙って、じっと耐えてきたにちがいない。そしておそらく、それ以外の方法はないのではないかと思うのだ。

 「心の傷」「傷ついた」という言葉があまりにカジュアルに使われすぎるという、抜粋中の主張は理解できる。ぼくもしばしば使ってしまうが、「トラウマ」という言葉がまさにそうであるように。だが、戦争体験を引いたうえでこの主張なのだ。何が「本当に」大変な体験かなど、当事者しだいではないのか(生活保護に関する議論でもしばしば、『本当に』困っている人という言い回しが用いられるが、この形容は危険だと思う。救援の間口を狭める方向へ働きやすい)。そのうえ、黙って耐える以外の方法はないとまで。クライアントをシバくつもりか、この医者。
 ……と思っていたら、もっととんでもないことを臨床の場で行っていることを知った。中嶋氏のサイトの著書一覧『『心の傷』は言ったもん勝ち』なる、タイトルだけで手に汗握る新書が載っている。内容紹介もまた、

「心に傷を受けた」と宣言したら、あとはやりたい放題。詳しい検証もなく、一方的に相手を加害者と断罪する―そんな「エセ被害者」がのさばっている現代日本。PTSD、適応・パニック障害から、セクハラ、痴漢冤罪、医療訴訟まで、あらゆる場面で「傷ついた」という言い分が絶対視されている。そう、「被害者帝国主義の時代」が到来したのだ。過剰な被害者意識はもうたくさん!現役精神科医が示す処方箋。

 というお腹いっぱい感あふれるシロモノなのだが、Amazonレビューにこんな記述が。

 私が本書で忘れられないのは、強姦された女性についての「症例」である。
 診察を重ねたある回の診察で、突然「もう忘れなよ」と患者に言ってのける。
 私は男性だが、強姦された女性に「忘れなよ」などと言えるほど無神経ではないし(いくら良好な関係を築いたとしても)、あわれみの気持ちも持ち合わせている。
 だから、専門家としての著者の姿勢には、ただ唖然とするほかない。
 このような「症例」を得々と書いてしまえるのも、私には理解できない。

 ……このレビュアー氏は中嶋氏を「根性主義の精神医」と評している。なるほど「いやなら断ればいい」も「黙って耐えろ」も根性主義だ。しかし、それどころではない。ヤバい。ワタミ渡邉美樹氏と同レベルのヤバさを感じる。レビュアー氏はさらに「この本の読者想定層は根性主義者、努力至上主義者で、こういう方々であれば本書に共感できるかも知れない」とも言っているが、実際そういう人々にはウケがよかったらしく、オススメ度は平均3.3だった。「こんな先生にお世話になりたい」との声も。ぼくは真っ平御免だが(幸いにして、代々の主治医はきわめてマトモな方々だ。ぼくの作った同人誌をほしがったので差し上げた方含め)。
 時折、この手のトンデモ精神科医をネットで目にする。安倍首相のフェイスブックに「韓国は人格障害なので縁を切れ」と書き込んだ自称・精神科医や、精神科医ですらないのに人格障害への接し方のページで何故か韓国をdisる鍼灸医(この両者、実は同一人物なのではないかとぼくは疑っている)などなど。こういう医者に罹るハメに陥らぬよう、身を守る手立てはないものか。

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