多様な要素のひとつを「腐女子が勝手に読み替えている」のなんて今に始まったことじゃない

 いや、なんかすっごい微妙な論をtwitter経由で目にしたもんで。
なぜ「ジャンプ」は変わったのか? フリー化された解釈に見る「ジャンプ」腐女子化の理由(1/4) – 日刊サイゾー

「『ジャンプ』は腐女子に媚びだしてから終わった」──。マンガ好きなら、こうした論調を耳にする向きも多いだろう。だが、これは果たして正しいのだろうか? 消費社会論と腐女子の消費傾向から、「ジャンプ」作品の変遷を探ってみたい。

 筆者によると、80年代の消費社会化のなかで行われていた「記号的消費行動を通じた卓越化ゲーム」が90年代に入って陳腐化し、「そこから距離を取って戯れるような「自分内的なモード切り替え」(=マイブーム)が散見されるようになった」という。そして、

 そんな90年代には、少女マンガでは『カードキャプターさくら』(講談社)、『ママレード・ボーイ』(集英社)が人気を博し、とりわけ『美少女戦士セーラームーン』の老若男女を巻き込んだ一大ブームを覚えている人も多いだろう。中でも、『セーラームーン』と『さくら』のヒットはすさまじく、いわゆる”大きなお友だち”と呼ばれる成人男性ファンをも獲得。そこでは、あくまで既存の女性読者のみならず、大人から子どもまでが〈マイブーム/非マイブーム〉という自分の基準にのっとり消費した格好だ。

 こうして、80年代のロリコンブームなどの影響で”低俗”な文化の一端と見なされていた同人誌文化も、マイブーム的消費の対象になっていった。従来は「おたく」だけの娯楽だと思われていたコミックマーケットだが、「おたく」を自認しない女子も『スラムダンク』(集英社)がマイブームだから、といったノリでコミケに参加するようになったのだ。

 というのだが……本当にそうか?? 『セーラームーン』『さくら』なんて、「みんな」でハマった最たるものではないか。しいて言うなら、二次創作においてはジェンダーの垣根を越えたブームが形成されたことをもって「マイブーム/非マイブーム」という基準の存在を指摘できなくもないが、それでは『セーラームーン』以前のコミケにおける巨大なやおいブーム――『キャプテン翼』『聖闘士星矢』『鎧伝サムライトルーパー』にハマった腐女子(当時はそんな呼称はなかったが)たちは皆、筆者の言う「おたく」=「性愛の世界でのゲームを降りて、当時流行していたガンダムやマクロスなどのアニメの世界でうんちく競争という名の「卓越化」にいそしむ人々」(ここで男性しか想定されていないのは、中森明夫の原義に拠るのだろうが、いささか片手落ちである)だったのか?
 筆者は続ける。

 コミケは今年で開催35年。90年代には一般参加者が10万人を突破し、2000年以降は参加者40万人以上を突破、今年の「夏コミ」(コミケ82)では参加サークル3万5000、実に一般参加者は約56万人に激増した。また、08年の出展サークルは男性29%、女性71%、コミックマーケット準備会は「世の中の認識と異なり、女性参加者が多い」と発表。コミケで扱われる作品は二次創作が圧倒的に多く、この中で腐女子を中心とした女性参加者は75年頃から、男性同士の恋愛を描いた二次創作物である「やおい」作品を発表、消費していた。

 一般参加者が10万人を超えた90年夏コミは、前述した『サムライトルーパー』ブームの最盛期だった。当時の男女比は3:7どころか、2:8だったという結果が出ている(89年夏コミ)。「「おたく」を自認しない女子も『スラムダンク』(集英社)がマイブームだから、といったノリでコミケに参加するようになった」というが、コミケをわずか数年のあいだに数倍の規模へと拡大せしめたあの巨大なブームは、卓越化ゲームだけでは説明しきれない。
 そもそも筆者の中で、80年代の同人誌文化は「おたく」=男性中心のものだったという認識があるように思えてならない。このブログでは何度も触れたことだが、75年の第1回コミケにおいて、一般参加者の男女比は1:9。男性参加者が優勢だったのは70年代後半のアニパロブーム期と85年から始まるやおいブーム期にはさまれた、ロリコンブーム期のごくわずかな期間にすぎない。ほぼ常に、女性参加者のほうが多かったのが実情である。ジャンプ連載作品のやおい二次創作も、『アストロ球団』(1972~76)『リングにかけろ』(1977~81)『風魔の小次郎』(1982~83)の時代から存在している。下記記事に対するブックマークコメントではあるが、腐女子の知人のこんな証言が存在しているくらいだ。
ジャンプは腐女子に完全に乗っ取られてしまった 腐女子受けするキャラや展開を入れないと打ち切られる:【2ch】ニュー速VIPブログ(`・ω・´)

lisagasu もう怒るの面倒になってきた。そうだよジャンプはアストロ球団の35年前から腐女子御用達の雑誌なの。編集長は代々就任するとコミケ詣でして腐女子の壁サークルに名刺配って歩いてる。気づかなかったお前らがバカ。 2010/08/28

 さて、筆者はここから、90年代末に登場した少女マンガ『神風怪盗ジャンヌ』を例に引き、多様な解釈の余地(筆者の言葉では〈解釈コードフリー〉)を持つ作品が登場したこと、また、「腐女子に媚びている」と言われる近年のジャンプ作品は一様に〈解釈コードフリー〉を兼ね備えていることを論じる。

例えば『ジャンヌ』ではヒロイン怪盗ジャンヌとヒーロー怪盗シンドバッドの「エロ」描写、またシンドバッドと彼にお供する黒天使アクセスのBL的関係や、ジャンヌとお供の準天使フィンの百合関係も同人化されることがあり、『紳士同盟』でその傾向は過激化する。御曹司の影武者、東宮高成と彼を愛するゲイの辻宮真栗の「公式BL」カップル、また真栗を好きな女装男子まおらと真栗の「BL」関係。さらにヒロインの乙宮灰音と彼女を愛する天宮潮の百合関係なども描かれている。

 こうした要素の過剰さには、作者の種村自身が『セーラームーン』の同人誌や『ガンダムSEED』のBL同人誌を制作した経験があることも無関係ではないだろう。二次創作は原作の読み手の想像力を通じ、能動的に新しい解釈を生み出す営みだが、多様な解釈余地がある作品ほど同人カルチャーとの親和性が高い。「多様な解釈のうちのひとつを、物語として提示する」同人作家の一面を持つ種村作品が、解釈余地の広い作品となったこともうなずける。

 要は「公式が病気」「公式が最大手」という作品が出てきたよ、ということを言いたいのだろうが、そんなものはそれこそやおいブーム期の『サムライトルーパー』あたりを持ち出せばこと足りる話だ。あと、「多様な解釈」という語の定義が狭すぎるのではないか。「エロ」「BL的」「百合」と取りあげているが、キャラクター間の関係性をどうとでも読み込む、「火のないところに煙を立たせる」のが二次創作的想像力だとぼくは考えるのだが。
 さらに論は続く。

ではなぜ、「ジャンプ」作品は〈解釈コードフリー〉を兼ね備えたのだろうか? それは「ジャンプ」がアンケート至上主義に基づいていたため、前述した消費社会の動向と足並みを揃えた「時代と寝る少年マンガ誌」であったからだ。

「ジャンプ」作品がこの傾向を強めたことで、腐女子を含む女性読者を受け入れる土壌が醸成されたわけだが、ほかにも少女マンガ誌のピンポイントマーケティングに外れた女性読者の支持を得たことも女性読者獲得につながった。

「ジャンプ」に流れることとなる女性読者が生まれた背景には、00年以降「りぼん・ちゃお・なかよし」の三大雑誌の発行部数が激減したことで方向転換を余儀なくされた各誌が、その対象年齢を比較的幼年層向けに限定したことが挙げられる。

 えーとこれ、定量的な調査に基づいた結論なんだろうか? 昔から女性読者がいたことは前述したlisagasu氏の証言のとおりだし、なにより四半世紀前の巨大なやおいブームがそれを裏づけている。90年代ジャンプを支えた『幽遊白書』『スラムダンク』『るろうに剣心』も、女性読者に恵まれていた。それはおそらく、筆者が論じるような脱記号消費化よりも、昔からの伝統的な流れと解釈したほうが自然である。より若い世代が数多くジャンプに流れた理由として、少女マンガ誌の低年齢化は一考の余地があるかもしれないが、同時にティーンズラブ誌の勃興など、女性向けマンガ誌全体の多様化も起こっているわけで、即断は禁物だ。
 さらにこの時代、ネットの普及が二次創作に大きな影響を及ぼしたことも考慮に入れる必要がある。現在コミケでジャンルコードを獲得しているジャンプ作品は、いずれもインターネットが普及し、ブロードバンド化が進みはじめる時期に連載が始まっていることは注目に値する(『ぱふ』などの女性向け同人情報誌で、インターネットガイド的なものが掲載されたのは00年前後のことだ)。ネットの普及で、同志が日本中にいることを確認でき、ファン活動・同人活動への参入障壁が下がった結果として、『ONE PIECE』(97年~)『HUNTER×HUNTER』(98年~)『NARUTO』(99年~)『テニスの王子様』(99年~)の二次創作ブームが拡大したというのが、ぼくの考えるひとつの仮説だ。

こうした人気作品には多様な要素が盛り込まれており、「腐女子に媚びている」というよりは、多様な要素のひとつを「腐女子が勝手に読み替えている」というのが実情だろう。この特性こそが〈解釈コードフリー〉なのだ。

 これこそ「火のないところに煙を立たせる」という行為であり、そしてそれははるか昔から行われてきた。筆者はこのあとも『イナズマイレブン』『忍たま乱太郎』などの作品を例に挙げ(『忍たま』ブームを00年代後半からに限っているあたり、見識が低いと言わざるを得ないのだが、筆者は89年生まれというからやむを得ないことか)、

『イナイレ』の場合は、骨太なストーリーとシナリオの完成度の高さから大人も楽しめる作品となっており、「サッカー」だけでなく「バトル」「学園もの」「パラレルワールドもの」など、好きなように解釈できる余地が広い。

 と述べているが、いわゆる“学パロ”や「パラレルワールドもの」も、『キャプテン翼』や『聖闘士星矢』ブームの時代にすでに見られたことだ。結局、ここで論じられていることすべて、今に始まったことじゃないの一語で片づけられてしまう。
 どうにも、自分の視野に入ってきたものだけで論じられた文章に見えてしかたがない。おそらく、熱を入れて記述されている『神風怪盗ジャンヌ』は筆者の原体験のひとつなのだと思われる。ぼくと10歳違うのだから、当時小学生の筆者はリアルタイムで読者だったのではないか。終盤で妙に仔細に論じられている『エイトレンジャー』も、筆者が現在好きな作品なのだろう。
 そういう「萌え語り」に立脚した論も大いに結構だが、やはり、もっと歴史を紐解く必要があるのではないかと強く思う次第である。

追記:
 「ジャンプが腐女子に媚びた」論にもしも何か妥当性を見出すとすれば、少女マンガにバトル要素を取り入れた『セーラームーン』と同様のことが少年マンガにおいて行われている――ということが言えるかもしれない。が、論拠に乏しすぎる。

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